立体映像技術の世界に革命をもたらす「Looking Glass」。この革新的な3D表示光線再生型ディスプレイは、VRやARのヘッドセットなしで、まるで物体が目の前に浮かび上がるような立体映像を実現します。複数人で同時に3D映像を体験できる点も大きな特徴です。
中でも注目を集めているのが、65インチ8K解像度を誇る「Looking Glass 65」。その圧倒的な大画面と高精細さで、3D映像の可能性を大きく広げています。
【参考】Looking Glass 紹介
本インタビューでは、この最先端技術を研究に活用する名古屋大学大学院工学研究科・藤井俊彰教授に、3D映像技術の最新動向と未来展望についてお話を伺いました。藤井教授の先進的な研究とともに、立体ディスプレイが切り拓く新たな世界をご紹介します。
Q1.
まず先生の研究について教えてください。
藤井先生: 私たちの研究室のキーワードは「3D」ですが、一般的な3Dとは少し異なります。通常、3Dというと三次元(X, Y, Z)を指しますが、私たちが扱っているのは3D映画などのような「立体的に見える」という意味での3Dで、そういった「立体ディスプレイ」「立体画像」という分野の研究を行っています。
例えば、3D映画は右目と左目に異なる映像を提示することで立体感を生み出しています。つまり2次元画像2枚で構成されているわけです。しかし、そこに見ている人が自由に動き回れる環境を考えた場合、2次元の画像を2次元の位置から撮影する必要があり、本質的には4次元の情報となります。
私たちの研究では、この4次元の情報の「取得⇒処理⇒圧縮⇒伝送⇒伸張⇒表示」という一連の流れを研究しています。
これは、例えば遠隔地の空間を共有するようなシステムの実現を想定しています。具体的には、4次元データを取得するカメラの開発、データの処理と圧縮、高速な伝送技術、伸張、4次元データを表示できるディスプレイの研究など、幅広い領域をカバーしています。
Q2.
その研究の中で、LookingGlassをどのように使用しているのでしょうか?
藤井先生: LookingGlassは、私たちの研究の中における最終的な表示装置として、各段階の最終評価をするためのデバイスとして使用しています。研究の各段階、例えばカメラの開発や処理アルゴリズムの改良、圧縮技術の評価などの成果を最終的に視覚的に評価することは、研究において非常に重要です。そのため、現在世の中にある最も大きくて最も美しい映像提示装置を用いることが重要で、Looking Glassはそのひとつとして使用しています。
また、ホログラフィ技術の研究にもLooking Glassを活用しています。ホログラフィは光の干渉・回折を利用した究極の3Dとも言われる技術ですが、現状ではデバイスの開発が追いついておらず、小さなサイズでしか実現できていません。そこで、ホログラフィで生成した映像をカメラで撮影し、それをLooking Glassでより大きなサイズに表示することで、将来ホログラフィ技術が進んだときのイメージを体験できるようにしています。
さらに、新しく研究室に配属された学生や外部からの訪問者に対して、私たちの研究内容をデモンストレーションする際にも活用しています。
8K解像度、65インチ (高さ : 843mm / 幅 : 1462mm / 対角線:1651 mm) のディスプレイは、Looking Glass シリーズの中でも最大サイズ (2024年11月現在)。
Q3.
Looking Glassとの出会いや選んだ理由、実際に使用した感想を教えてください。
藤井先生: Looking Glassを初めて知ったのは、アメリカで行われた学会での企業展示でした。当時Looking Glassが発表した製品は、現在ほど大画面ではありませんでしたが、従来に比べて光学的に画質の悪さを改善した、バランスの良い立体ディスプレイだと感じました。
Looking Glassの特徴は、古くからある方法ですが、レンティキュラーレンズの前にアクリル素材を配置することで、立体感を強調しつつ光学的に画像をきれいに見せることができる点です。また大きな特徴として、専用のソフトウェアを必要とせず、PCにUSBで繋げば立体画像が見られること、3D-CADやUnity等の一般的なツールと簡単に連携できることなどが挙げられます。これにより3D映像の制作や表示のハードルが大きく下がり、手軽に使えるようになりました。実はそれが一番の功績だと思っています。
現在、私たちが所有しているのはLooking Glassの中で最大サイズの8Kパネルを使用したモデルです。他の出力デバイスも使用していますが、サイズと解像度の両面で、現時点ではLooking Glassが最も優れた製品だと考えています。
また、大人数で同時に立体映像を観察できる点が特に優れており、展示会やデモンストレーションでの使用にも適していると感じています。
Broadcasts up to 100 viewa for multiple groups of people : 「同じ画面」で「複数人」が「同時」に「異なる角度」から3Dを見ることが可能
Q4.
先生の研究の今後の展望を教えてください。
藤井先生: 私たちの研究は、立体映像技術を活用した新しい通信やエンターテインメントの形態を目指しています。「臨場感通信」と言われるような、遠隔地と映像を共有してあたかもその場にいるようにできるような環境を作り出すシステムや、スポーツをスタジアムの中にいるような臨場感で楽しむことができる「自由視点映像」などが可能になるでしょう。
つまり、私たちが暮らしている通常の空間のように、自分の頭が動くと提示される映像も動くような環境をつくることを目指しています。
そのために、時代ごとに最も優れた出力装置を常に追求しているのです。現時点では、サイズと解像度の面でLooking Glassが最も優れていると考えていますが、今後もさまざまな新しいディスプレイ技術を積極的に取り入れていく予定です。
Q5.
Looking Glassに今後期待することを教えてください。
藤井先生: Looking Glassの改善点としては、まず解像度の向上が挙げられます。現在の8Kパネルでも、立体映像を表示するには十分とは言えません。16Kや32Kといった、さらに高解像度のパネルが実現すれば、より精細な立体映像の表示が可能になります。
しかし現状、8K以上の解像度を持つディスプレイの需要が限られていることもあり、今後の3Dディスプレイに対する需要が高まってくることも重要だと考えています。
Q6.
立体映像技術の現在と、今後どのようになっていくとお考えですか?
藤井先生: 3D映像技術の分野は、これまでに何度かブームと衰退を繰り返してきており、現在はメタバースやXR(クロスリアリティ: VR, MR, AR等)といったキーワードとともに、再び注目を集めています。
最新のトレンドとしては、AI技術、とくに生成AIの発展が大きな影響を与えています。従来、リアルな3D映像の生成には膨大な時間と労力が必要でしたが、AIを活用することで数枚の写真から高品質な3D映像を簡単に生成することが可能になりつつあります。
そこに、GPUの性能向上などのハードウェアの進化がうまく融合して、よりリアルで複雑な3D映像が生成できるようになっています。これらの技術の組み合わせにより、よりリアルな仮想空間や、現実世界とシームレスに融合したAR体験の実現が近づいています。
その中でLooking Glassは、それら仮想空間などを表示し、体験出来るディスプレイのひとつという位置づけになっていくと思います。
Q7.
Looking Glassとしては、今後どのような展開ができそうでしょうか?
藤井先生: Looking Glassのような立体ディスプレイ技術は、人間の感覚の一つとしてプラスの価値を与えるものですので、現在2Dディスプレイが使用されているほぼすべての分野で活用の可能性があります。例えば、工場のコントロールパネルなどで、ボタンの押下状態を立体的に表現することで操作ミスの低減や直感的な操作を可能にする、といった使い方が可能です。表示が必要なものを立体的に提示できる技術は、あらゆる場面で利用されるようになっていくと考えられます。
Q8.
学生や若手研究者へのアドバイスをお願いします。
藤井先生: 3D映像技術の分野に限らず、最先端の研究や技術開発において重要なのは、幅広い知識と柔軟な思考です。一見すると古い技術や枯れた分野に見えるものでも、時代の要請や他分野の技術進歩によって突然注目を集めることがあります。
例えば、現在のAIブームの中核技術であるニューラルネットワークは、実は数十年前から存在していた技術です。しかし、計算機の性能向上やビッグデータの利用可能性が高まったことで、突如として革新的な成果を生み出すようになりました。
したがって、幅広い分野に興味を持ち、貪欲に学び続けることが重要だと思っています。キラキラした最先端の技術だけを追いかけるのではなく、基礎的な知識や技術を大切にしながら、常に新しい可能性を探求してもらいたいと思います。
藤井 俊彰 (Toshiaki FUJII)
1990年東大・工・電子卒。1995年 東大院・工学系研究科電子工学専攻博士課程修了。博士(工学)。同年、名古屋大学大学院工学研究科助手。2008-2010年、東京工業大学大学院理工学研究科准教授を経て、2012年、名古屋大学大学院工学研究科教授、現在に至る。2020年より内閣府・上席科学技術政策フェロー(兼務)。
画像処理、映像符号化、特に3次元映像処理・通信、3次元映像システム、および映像符号化の国際標準化活動に従事。
2016年本会論文賞、2017年度映像情報メディア学会(ITE)丹羽高柳賞論文賞、FIT2017(第16回情報科学技術フォーラム)船井ベストペーパー賞、画像の認識・理解シンポジウム(MIRU2021)最優秀論文賞(MIRU長尾賞)ほか受賞。
画像符号化シンポジウム・映像メディア処理シンポジウム(PCSJ/IMPS) 実行委員長(IMPS)、本会画像工学研究専門委員会委員長、3次元画像コンファレンス2016 実行委員長、本会「画像符号化・映像メディア処理特集」編集委員長、ITE論文編集委員会委員長、本会情報・システムソサイエティ副会長、情報処理学会情報企画調査会SC29/MPEG/VIDEO小委員会エキスパート、SC29/WG1小委員会委員、PCSJ/IMPS運営委員長、FIT2022プログラム委員長などを担当。
リアリティの高い3D映像を表示することができる、デスクトップ型3D表示光線再生型ディスプレイディスプレイシリーズ。 VRやARのヘッドセットを必要とせずに3Dを確認・表示することが可能で、また複数人で同時に同じ3Dの確認ができることも特徴です。
現在、6インチの空間フォトフレーム Looking Glass Go、16インチの 4K OLED ディスプレイ搭載モデル Looking Glass 16″ Spatial、32インチ8K解像度の Looking Glass 32″ Spatial、65インチ8K解像度のLooking Glass 65″の4モデルがラインアップされています。
主な用途として、複雑な3Dデータの視覚化、プロトタイプやデザインの確認、教育やプレゼンテーション、複数人での共同作業、エンターテインメントやクリエイティブ活用などが挙げられます。
■ Looking Glass シリーズの詳細、お問い合わせはこちら Looking Glass | 3D表示 光線再生型ディスプレイ |
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